ERPなどを展開するSAPジャパンがS/4HANA のSaaS版の販売に一段と力を入れ始めている。日本のユーザーはS/4HANAを導入しても、どうしてもアドインする。自社の業務プロセスの要件に標準機能だけでは満足できないからだ。「いままでのやり方を変えられない」という現場の抵抗もある。だが、「アドオンには大きな弊害がある」と、同事業を担当する稲垣利明本部長は指摘する。
最大の弊害はコスト高になり、導入の費用対効果を下げてしまうこと。機能追加を発注すれば、費用と時間もかかるのは当然のこと。しかも、アドオンは、業務プロセスが変わったおりの足かせにもなる。今の業務プロセスに100%フィットすることを求めて、次々にアドオンすれば、将来の拡張などの柔軟性を失うことになる可能性がある。稲垣氏はある製造業の例を紹介する。現場の要望などからアドオンを作ったものの、実は半分は1年間に一度も使われなかった。アドオンには例外処理が多いからだ。そんな不要な機能をそぎ落としながら、業務改革を進めていく。
S/4HANAのクラウドには、プライベート版とパブリック版(SaaS)がある、既存のオンプレユーザーはプライベート版に移行するケースが多い。オンプレからのアップグレードができるからだ。対して、パブリック版は大企業のグループ会社や中堅企業など新規のユーザーに採用されているという。1、2週間で導入もできるし、年2回のバージョンアップで、機能はどんどん追加もされていく。
日本はSAPにとって、売り上げが3番目に多く、ユーザーの要望を取り入れてくれる可能性も高いとみた。標準機能を装備するSaaS版の普及に向けて、日本法人はIT企業らとの協業も推進する考えだ。日本企業がアドオンという負債を抱えていくのか、業務改革に取り組むのか、SaaSが試金石になりそうだ。(田中克己)