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2024.11.27

会津若松市視察、スマートシティの成果から学ぶこと

 ITビジネス研究会が11月20日、21日の2日間、福島県会津若松市のAiCTコンソーシアムを訪問し、スマートシティの進展とスタートアップ育成について、アクセンチュア、マツモトプレシジョン、地域ベンチャー創生支援財団、バンプージャパンの責任者と意見を交わした。会員11人が参加した。

 AiCTコンソーシアム代表理事の海老原城一氏(アクセンチュア執行役員アクセンチュア・イノベーションセンター福島センター共同統括)に、会津若松市が推進するスマートシティの現状を聞いた。発端は、2011年の大震災にあった。アクセンチュアは日本で貢献を形にしたいとの思いから、復興支援として会津若松市にスマートシティに取り組むことを提案し、市や企業の賛同を得て、コンソーシアムを立ち上げる。室井照平市長からは「魅力ある産業を創って欲しい」と依頼もされたという。富士通が半導体工場を撤退し、雇用が大きく失われたこともあったのだろう。

 そこにテクノロジーを使って、会津若松の良さを創り出すことにした。大きく動いたのは、2015年のデータ連携基盤の構築、いわば都市OSを使った地産地消の実現になる。例えば、地場の旅館が大手プラットフォーマ経由で宿泊予約を受け付けると15%程度の手数料を支払う。その手数料を2%、3%にすれば、旅館の利益率は大きく改善する。モノづくりの製造業には利益率を向上させて、給与アップにつなげる。そのための地域プラットフォームを設立し、データ連携基盤の上で地場の企業や店舗がつながって活動できる仕組みにする。地域通貨を用意もする。

 こうした理念に賛同し、集まって立ち上げたのがAiCTコンソーシアムになる。46社でスタートし、今は96社に拡大する。エネルギーや観光など14のワーキンググループがあり、市民の意見を可視化するため、様々なデータを収集、分析し課題を解決していく。例えば、イベントを催し、その場でアイスクリーム容器のリサイクルを考える。市民がいくらのデポジットなら容器代を支払うか検証した。市民が自分の電子カルテのデータを見えるようにしたり、遠隔診療に活用したりできるようにもする。赤ちゃんが生まれたら、電子母子手帳を発行する。そのために市民約3万人がIDを取得。会津若松市民は10万人超なので、おおよそ3分の1になる。

 この会津若松モデルを横展開もする。現在、11の県、39の地域が導入する。福島県内でも28の市町村が導入する。多くの自治体のIT担当は2人か3人程度なので、データ連携基盤の活用は大いに有効になる。県がいわばマンションを建て、そこに市町村が入居し、分野ごとにデータ連携を図る。24年度は詳細を煮詰めて、25年度から26年度にかけて順次、導入していく手順になる。地域のIT企業が導入を支援する。自治体による重複投資を避けることにもなる。それを推進する協議会を設置し、データの共有化も図る。それに応えられない企業は、協議会には加盟できないという。

中小製造業の経営変革促す取り組み、まずは給与アップから

 スマートシティの1つに、中小製造業の生産性向上と給与アップがある。アクセンチュア・イノベーションセンター福島などに所属するシニア・マネジャーの鈴木鉄平氏によると、会津若松市の高齢化と人口減少の課題を解決し、若者らが定住し、安心して暮らせるようにすることにある。簡単に言えば、地元に働いて生活できる環境をつくること。その仕組みの導入支援は地元のIT企業が担う。

 この事業を推進する鈴木氏は「自分のミッションは、中小企業や地域から日本のGDP(国内総生産)を上げること」と、地域の活性化の重要性を説く。同氏が150社以上の中小製造業を訪問して分かったことがある。1つは、経営者らは“モノ作り”には力を入れるが、売って稼ぐことへの意識が薄い。製造原価が把握できなければ、利益率を上げる改善の手は打てないだろう。

 しかも、人材採用がどんどん難しくなっている。鈴木氏によると、宮城県の自動車関連企業が最近、高卒を採用できなくなる。理由の1つは、初任給約20万円が安いことにある。解決策の1つは毎年給与を上げること。そのために例えば、経理や販売管理など非競争領域は世の中にあるシステムを使って、データをどんどん蓄積していく。それを活かして、競争領域の需要予測などをする。

 アクセンチュアはその実現策として、同社が経験を積んだ大手製造業向けノウハウや知見を取り込んで開発した中小製造業向け共通プラットフォームConnected Manufacturing Enterprises (CMEs)の導入を提案する。CMEsはERPのSAP S/4HANAをベースに、各種テンプレートで構成するもので、肝は巧と算盤のバランスをとることにある。巧とはモノ作り、算盤とは原価管理などのこと。経営者の弱点は算盤にある。とくに製品別の原価管理ができないので、“どんぶり経営”になっている。そこで、利益が出ない、上がらない理由がどこにあるのか分かるようにする。

 最大の目的は、社員の給与を上げること。そのために、経営を可視化し、データに基づいた経営にする。経営者らのITリテラシーも必要になる。ちなみにERPの導入費用は月額料金で優秀なIT人材1人、2人雇う程度だという。目指す姿は、地域が地域を支援すること。なので、地域のIT企業が導入を支援する。彼らの人材育成を支援もする。さらに地元の金融機関のコンサルティングのスキル育成も支援する。

社員の給与を上げることを宣言し、デジタルを推進した中小製造業

 その仕組みを導入した第1号が、福島県喜多方市に本社を構える社員約150人の精密機械部品加工のマツモトプレシジョンだ。松本敏忠社長は企業価値を高め、社員の給与を上げ続けることを宣言し、まずは社会から選ばれる企業になるために、今日的テーマを設定するとともに、経営者自身の自己変革に取り組む。今日的テーマとはDX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)になる。松本氏は同社に入社する以前、小売業に務めていた。その経験から製造業をみると。遅くまで残業しているに、給与が上がらない。社員は売れ筋製品を分かるが、稼ぎ頭の製品を言えない。問題は、売れ筋製品は「おそらく利益が出ているだろう」と思っていること。本当な赤字で、作れば作るほど赤字が膨れるかもしれないのにだ。製品別の原価が分からないからだ。そこで、ERPの導入によって、解決を図った。21年4月にシステム導入してから3年になり、21年には営業利益率を3%改善し、給与を4%上げる。22年も23年もアップしたという。

 GXについては、二酸化炭素(CO2)の排出量削減になる。ERPにはカーボンフットプリントを算出する機能があり、それを使って再生エネルギー利用率を高めていく。工場から排出する年間約400トンのCO2は、年間760KWの太陽光発電の活用によって、ゼロにする。残りの80%は、主に原材料の調達などの工程で発生するCO2で、排出権を購入し、ゼロにする。削減実績は外部に公開し、ブランド力を高めることにも活かす。

 注目したのは、エネルギーマネジメントシステムを構築したこと。工場は土日、休日になるので、電力を地域社会に供給できるようにする。加えて、電気自動車(EV)を蓄電にし、工場の空調機器などに使えるにする。それを条件にEV購入の社員には補助金を出す。システム開発には、EVの日産自動車と空調設備のダイキン、IT企業のTISの3社と組んで実現する。

会津大学発ベンチャー育成に力入れる財団 

 2日目は、地域ベンチャー創生支援財団の栗林寿代表理事に、会津大学からベンチャーを生み出す支援策を聞いた。31年間に累計40社超のベンチャー企業が誕生したものの、最近は減少傾向にある。年に1社を、2社、3社へと増やしたという。残念ながら、立ち上げたベンチャーは社員100人未満が多く、ユニコーンは生まれていない。学生の7割以上が留学を含めた福島県外からで、県内に残るのは1学年250人のわずか10数%だという。IT人材が求められていることもあり、多くが大手企業や官公庁に就職してしまうことにもありそうだ。

 財団の目的は、創業の志を育成することや、起業家精神の育成、そして起業家を支援すること。その一環から米シリコンバレーとベトナムでインターシップを行っている。大学の寄付講座を設けたり、学生に10日間の仮想企業を体験させ、実務を学ばせたりもする。とくに起業したいという5%程度の学生に対して、起業のアドバイスもする。結果、財団はInf、StoD、ピッグネット(AIが店の業務を支援する)、Codephiliaの4社の立ち上げを支援もした。

 これからは教官の起業も支援する。研究成果を世に出すことだ。もう1つは、留学生への支援になる、大学院生の半分が留学生、博士課程になると、日本人は1人しかいない状況。そんな留学生に日本で起業したという意欲があるものの、留学が終るとビザの関係で帰国せざるを得なくなる。それも改善したい。3つめは、IPAの未踏の1つアオタケプロジェクトを活用し、若手人材育成に取り組むこと。商工会議所のバックアップで、新しい産業を創出する狙いもある。そのために地域ファンドをつくりたいという。「会津を日本のシリコンバレーにする」。会津大学初代学長の故・國井利泰先生の思いを実現させる。

エネルギーマネジメントシステムを構築するタイの発電事業者

 タイの発電事業者の日本法人バンプージャパンが会津若松市に拠点を設けて、AiCTコンソーシアムのエネルギーのワークキンググループに参加する。これとは別に24年3月に立ち上げた会津エネルギーアライアンスに参画し、地元企業や市民らとエネルギーの地産地消に取り組んでいる。伊藤真人氏(取締役・再生可能エネルギー・テクノロジー事業統括兼会津支社長)によると、具体的には市民や事業者の太陽光発電の電源を共有する仕組みにする。消費者らへのインセンティブも用意し、電力の使用状況を共有し、電力の使い方を把握し、需要を予測したりもする。そこから再生エネルギーの普及へと発展させていく。

 背景には、大型の発電所をつくるのが困難になりつつあること。送電も難しくなる。その一方で、工場などが自家発電消費型になっている。工場は土日など休日に電力を使わないので、その有効活用を考える。その一例がマツモトプレシジョンになる。同社工場に671KWの太陽光発電を設置する投資規模は1億5000万円になる。中小企業には大きな負担。そこで、バンプーが設置し、マツモトプレシジョンが使用料を支払う形にし、17年間の供給契約を結ぶ。蓄電池として、EVを利用する(普段は電力を供給するが、災害時にEVが電力を供給する)。そのため、先に述べたように日産とダイキン、TISと協業し、エネルギーマネジメントシステムを作る。EVが空調に電気を供給することで、外部から電力を買う必要がなくなる。このモデルを25年度から横展開する。(田中克己)

 これら企業や団体に関心のある方は事務局まで連絡ください。

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