PwCコンサルティングが6月7日、メタバース(仮想空間)のビジネス利用実態を発表した。林和洋パートナーは「メタバースのビジネスと、NFT(非代替性トークン)の活用が加速している」と語り、その背景にオンラインでの円滑なコミュニケーション、5Gをはじめとする通信技術の向上、VRヘッドの低価格化などを挙げる。
メタバースの認知率は47%と約半数に達するが、自社ビジネスでの活用に関心がある企業は10%にとどまる。活用は、ゲームやエンターテインメントなどが先行するものの、教育やトレーニング、広報といったビジネスでも進み始めている。9割弱が「メタバースにビジネスチャンスがある」とし、しかも半数近くが新規ビジネスの創出などイノベーションを期待している。具体的な事業化に着手する企業も23%、予算化した企業も7%になる。さらに半数の企業は、NFTにも取り組んでいる。
長嶋孝之ディレクターは、アバターを活用したコミュニケーション、デジタルコンテンツの売買、現実世界の再現などの活用を示す。適用領域としては、マーケティングや営業など顧客接点が最も多いという。「1年以内にメタバースのビジネス活用を実行している企業が爆発的 に増える可能性がある」。49%が「1年以内に実現させる」と回答する一方で、「導入目的を明確化できない」、「費用対効果を説明できない」などといった導入障壁がある。なので、PwCは小さく始めて、効果を上げて適用範囲を広げていく作戦を薦める。
NFTの調査を担当した丸山智浩シニアマネージャーは、「NFTの認知率が28%とあまり高くない」と、結果の感想を述べる。その一方で、「ビジネスにいい影響を及ぶ」との回答が8割超もあり、1年以内にビジネスでの活用を実現させる企業は検討中を含めると52%にもなる。
とはいっても、メタバースは黎明期で、未来のシナリオを描ける段階には達していない。だが、奥野和弘ディレクターは「今すぐに、始める」ことを提案する。小さな失敗を繰り替えしながら知見を蓄えていくためだ。しかも俯瞰的に検討する。目先の利益を優先すると、導入は先送りになり、大きく出遅れることになる。そのためには共創の考え方が重要になる。巨大プラットフォーマによる独占からオープンイノベーションによる共創アプローチへの構造変革の可能もある。
そんな期待がメタバースとNFTにあるという。10年、20年のスパンでみていく必要があるとし、PwCは「少なくとも初期のメタバースコミュニティにおいて、ブロックチェーンの非中央集権というコンセプトを理解し、賛同する層が新しい価値を提供する中心的な役割を果たしていくと考えられる」と、巨大テック企業以外の活躍も予想する。(田中克己)