富士通が9月10日のIRdayで、2030年度に向けた中期経営計画の進捗状況を説明した。磯部武司代表取締役副社長兼CFOは「5人の副社長体制で、2030年に目指すあるべき姿を実現する」と、主力のサービスソリューション事業の展開を中心に推進する考えを強調した。ちなみに同事業の売り上げは2023年度の2兆1375億円を、2025年度に約2.4兆円にする。内訳はオファリングサービスのユーバンスを3679億円から7000億円、モダナイゼーションを1450億円から2250億円と大きく伸ばす一方、SIなどの既存ITサービスは1兆6511億円から1兆4750億円と減収を予測する。これらに共通するコンサルティング事業は300億円から1800億円に急拡大させる。
社会課題などを解決するユーバンスなどを担当する高橋美波執行役員副社長は「データの流通と活用が重要になる」とし、データの統合とAI分析に投資を集中させるという。実はユーバンスの売り上げの3分2はSAPやサービスナウ、セールスフォースのパッケージやサービスをベースにしたSIビジネスになる。なので、SIサービスからオファリングサービスへ転換するにはソリューション作りが必須になる。「先進的なオファリングは、ユーザーと共同開発中」(高橋氏)だ。例えば、サプライチェーンや小売り、ヘルスケアなどの分野の開発を進めており、それを横展開することだ。
サービスデリバリを担当する執行役員副社長の島津めぐみ氏は「モダナイゼーションはDXを加速させるもの」と位置づけて、メインフレームユーザー320社、UNIXユーザー640社にモダナイゼーション商談を売り込む。富士通にとって、「おいしいビジネス」である。例えば、メインフレーム保守に年2000万円をかけているユーザーのモダナイゼーションは、3年間で20億円のビジネスになる。メインフレームの運用に年8000万円投資するユーザーは4年間で60億円の商談になる。モダナイゼーション商談のピークは2028年から2029年と予測し、メインフレームやCOBOLなどに詳しいシニアのIT人材らを集め、商談獲得を推進する。そのシニア人材をマスターと呼び、現在の100人から26年度に500人に増やす。
大企業向けビジネスなどを担当する執行役員副社長の大西俊介氏は「コンサルタントを23年の2000人から25年に一気に1万人にする」などと、コンサルティングビジネスを中心に語った。リッジラインズという子会社のコンサル専門会社があるのに、なぜ富士通内での育成、獲得に舵を切ったのか。「リッジラインズは富士通と距離を置いている」(大西氏)からだろう。CTOのヴィヴェック・マハジャン執行役員副社長はデータセンター向けプロセッサMONAKAなどを説明した。実は、開発言語プラットフォームを開発するベンチャーのアシアルがMonacaというブランドを使っており、昔のことを思い出し、心配になった。
今回の説明会では、大きな収益源の約20社の大企業ユーザーに対する施策について、担当の大西氏から説明がいっさいなかった。富士通は「儲かる」「儲からない」を案件獲得の選択基準と言われており、儲からないユーザーのビジネスを失えば、協力会社などのパートナーとの関係見直しも迫られるだろう。もう1つ注目したのが副社長5人のうち、プロパーは磯部氏と島津氏の2人だけ。残り3人の外部から招聘し、新陳代謝を図り、変革を加速させる考え、と磯部氏は説明する。(田中克己)