富士ソフトは2023年10月に生成AI部を設置し、生成AIの活用などの戦略を練ってきた。その戦略を実行に移すのが2024年になる。生成AI部長の河野恭太郎氏は「ソフト会社の生命線であるソフト開発に大きなインパクトを及ぼす」と、19世紀の産業革命と同じくらいの変革に備えるとする。需要拡大に甘えてきたソフト業界が生産性向上を怠ってきたことを、生成AIが目覚めさせたというわけだ。GitHub CopilotとCodeWhispere、Cursor(カーソル)の3つを使い分ける。
河野氏は「ソフト開発に占める30%から40%のプログラミング工程がなくなる」と、ビジネスモデル変革を迫られているとする。開発手法も大きく変わる。「GitHub Copilotをコード生成に取り入れるだけだと、稼ぎどころを失っていくので、ソリューションを便利に活用するとともに、開発プロセスの自動化ソリューションを自前で作る」。別の言い方をすれば、生成AIの取り組みは開発の生産性を上げることなので、生成AIが自律して開発プロセスをタスクとして、こなせるエージェントシステムを作ること。
ただし、「売り上げが3割減るという単純なことではない」。稼ぎ頭だったコーティングの価値はすでに低くなっており、そこを生成AIが効率化し、浮いたリソースを設計やテストなどを強化するなどに振り向ける。実装は生成AIに任せるものの、テストの負荷が大きくなるからだ。テストシナリオを生成AIが創り出し、人はより綿密なテストを行う。
同社は5000ライセンスの契約を考えている(2024年1月時点)。「プログラマ全員が使えるよう社内で検証中」だが、すべてのプロジェクトにGitHub Copilotなどを適用できるわけではないので、プログラマ約1万人のうち半分の5000人程度の利用を考えている。加えて、人の担う領域がある。「生成AIに依頼した回答が100点で返ってくれことは少ない。さじ加減を含めたトータルなコーディネートはSI企業にしかできないこと」と、河野氏はSI企業の価値を紹介する。
効果的な生成AI活用には、ユーザーとの契約見直しも欠かせない。これまでの下請け的な契約の中では、成果物はユーザー企業側になる。「納品して手元に残らないビジネスモデルでは、生成AI活用はやりづらくなる」。開発の仕方だけではなく、知見が残らない契約形態を議論する必要があるということ。つまり、開発の成果物を生成AIに取り込めるようにしなければ、さらなる生産性向上は見込めない。
ソフト業界は、ユーザーの仕事に依存している。つまり、ユーザーのリクエストに応えることで、外の世界を気にしない傾向があった。「世の中の流にあまり興味を示さない」。だが、富士ソフトの経営陣は生成AIの影響のすごさに気づき、号令をかけた。5年後、10年後の姿を描き、変化し続ける必要がある。(田中克己)