ITビジネス研究会は25年12月2日、3日の2日間、京都府京都市のスタートアップと支援施設を視察した。25年度は名古屋に続く視察で、AI関連企業を中心に訪問し、会員企業から9人が参加した。
HelpFeel、AIナレッジデータプラットフォームでFAQ市場開拓
初日の2日はAIスタートアップHelpFeelを訪問し、同社CEOの洛西一周氏にAIナレッジデータプラットフォーム市場の動向を聞いた。「常に使うナレッジを分析、改善するうえで、社内のナレッジを取り込むことが重要になる」。例えば、コールセンターなら顧客の声、従業員のそれに対する回答だけではなく、問い合わせなどに対する社内会議の発言など、音声データを活用できる仕組みが必要になる。その際に使う検索はグーグルからChatGPTなどに変わってきていることにも注視する。
もう1つは、同社サービスを活用した成果、効果を明確にすること。ユーザー数は約700社になり、コールセンターの場合、人員を20%から64%削減した事例が数多くある。例えば、小田急トラベルは電話による問い合わせが98%も減ったという。洛西氏は「FAQ市場は大きく成長しており、当社のシェアも約10%になる」と明かす。ある調査データによると、Zendeskを抜いて2位になり、トップシェアのPKSHAに迫りつつあるという。

同社のシェア拡大の背景には、同社がナレッジの整理までを請け負うことにある。古いデータを更新したり、間違っているデータを正しくしたりするなど、いわば泥臭い作業まで担うことだ。AIが読めるデータに変換したりもする。商談は半年から1年程度かかるが、顧客にコストが下がる、売り上げが増えるといった「PLにヒットする」ことを説く。今後、電話ログ、メール・ログなども取り込んだり、有力なSaaSとの連携を図ったりするなどし、ソリューションの幅を広げていく計画。
アクセンチュアのAIセンター、CEOらに変革のスタートを切らせる
次に訪問したのが、SI・コンサルファームのアクセンチュア24年11月に開設したアクセンチュア・アドバンスト・AIセンター京都になる。同社執行役員の保科学世AIセンター長は「CEOに変革の重要性を理解し、変革のスタートを切る場になる」と同センターの目的を説明する。別の言い方をすると、AIセンター京都は、経営の意思決定をサポートするAI活用について、CEOらと議論する場でもある。AIと人、AIとAI、人と人で、徹底的に議論し、CxOのデジタルツインによる未来のシナリオを作成する。ある課題の解決策に対し、賛成するAIと、反対するAIによる議論もさせたりもする。その答えが、実際に行われた経営会議の結論を同じだったことで、CEOは役員らに「君らは必要がない」と、冗談でもいったという。(写真は同社HPから)

同社従業員は全世界に80万人弱おり、そのうちインドに約30万人を配置する。同国は約1000社のアウトソーシングを請け負うとともに、数十万人の作業をAIに置き換える研究・開発に取り組んでいる。社内業務を変革したり、経営にAIを活用したり、顧客と市場をAIで捉えたりもする。それらもAIセンター京都で活かされている。
京都府、ディープテック育成・支援に力を入れる
3日の午前は、京都府でスタートアップ育成・支援を展開する商工労働観光部産業振興課を訪ね、中原真理氏と籾井隆宏氏に具体的な施策などを聞いた。2020年に内閣府が進める「世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」の「グローバル拠点都市」に大阪・京都・神戸が選定されたことで、京都府は脱炭素などディープテックの育成に向けて、スタートアップ・エコシステムを構築した。結果、「すべてのKPIを達成した」(籾井氏)。25年からの2期も採択されたことで、バイオテクノロジーやグリーンテックなどのスタートアップの資金調達を拡大させる作戦を推進する。

京都府のスタートアップは延べ670社になり、年に約50社増え続けている。時価総額100億円以上が15社になり、その4割が技術力で課題を解決するディープテックになる。また、京都大学など大学発スタートアップがその4割を占めているにも京都府の特徴で、彼らの海外展開の支援などもはじめている。中原氏は「2期はスタートアップの数だけではなく、高みを追求する」と話り、海外からの資金を取り込むことにも注力するという。国内の投資家やベンチャーキャピタルによる投資だけでは、調達額が小さいからだ。加えて、海外の起業家やMBAを取得する外国人を呼び込むことで、活性化も図る。京都の大手企業のマッチングを売り込む。「京都は、スタートアップの相手なる大企業がたくさんある」(中原氏)。また、1万人超が参加するスタートアップイベントIVSに約2割の外国人が参加するなど、グローバル化を後押しする。
京都高度技術研究所とAIスタートアップのアフキー
3日の午後は、1988年に産学連携の推進を目的に京都市らが設立した京都高度技術研究所を訪問した。孝本浩基地域産業活性化本部長によると、当初は米スタンフォード大学リサーチセンターをモデルにした情報産業の集積地を目指し、地域の産業支援を始めた。現在はライフサイエンスやモノづくりなど他分野の研究のウエートが高まっており、研究者約60人のうちIT系は3分の1になる。年間の事業費は約15億円で、研究開発本部、未来プロジェクト推進室、地域産業活性化本部の3事業を展開する。研究所の施設には、成長意欲のある企業510社、約6000人が集まり、地域産業をワンストップで支援する体制を構築している。

同研究所が支援する1社、AIスタートアップのアフキー代表取締役の田村昴祐氏に、AI活用の事業内容を聞いた。25年9月に設立したばかりの同社はAIの開発、支援を展開するほか、副業としてチョコレートの製造・販売を手掛ける。田村氏は京都大学工学部を卒業し、SaaS企業などでマーケティングや経営戦略などの作成支援の仕事をしてきた。そうした中で、「面白いアイデアは、キーボードをたたいているときには浮かばない」ことが分かり、チョコレート屋を立ち上げたという。
現在、「レンタルAI戦略室」という形で、企業向けAI活用支援(バックオフィス、注文データ、AI資料作成、カスタマサポートなど)を提供する。背景には、「PoC(実証実験)を繰り返すだけで、持続的な価値創造ができていない」ことがある。そこで、「AIをフロントに出すのではなく、裏側で活用しつつ、人と人との関係性に焦点を当てて、心を動かす体験の創出を目指すことにした」。田村氏は「テクノロジーの進化に振り回されず、普遍的な人間のニーズに応える事業を展開する」と、AIからヒューマンマネジメントに転換するという。(田中克己)





