野村総合研究所(NRI)が4月27日、2025年度に売上収益8100億円、営業利益1450億円などとする3カ年中期経営計画を発表した。年平均成長率を、売り上げが5.4%、営業利益が9%とし、この成長を持続すれば、2030年度に売り上げ1兆円以上、営業利益率20%以上などとするグループビジョン2030の数値目標は達成できる。
新中計の年平均成長率は、前中計(20年度から22年度)で達成した数値(売り上げ8.4%、営業利益11.9%)より低く設定する。企業理念に「使命」と「私たちの価値観」に、何をしようとするのか規定する「創発する社会」を、グループビジョン2030に「2030年のNRIグループの姿」と「成長ストーリー」に、これらを実現するために非財務に取り組む「サステナビリティ基本方針」を、それぞれ追加した。非財務にも力を入れなければ、新たな成長は難しいとの判断があるように思える。
此本臣吾会長兼社長は4月27日の説明会で、「外部の評価機関から非財務の取り組みで高い評価を得た」と喜ぶ。気候変動における財務インパクトのシナリオ分析などによる「Dow Jones Sustainability indexs」と、ESGに関するリスク軽減の取り組み「MSCI ESG ratings」、温室効果ガス排出量などの開示内容を充実する「CDP」の3つで、とくにESGでは最上位レベルの格付けを獲得できたという。
一方、財務など数値目標を表す成長ストーリーの基本は、ITサービスとコンサルティングを組み合わせる本業(コア領域と呼ぶ)を強化すること。加えて、証券総合バックオフィスシステムTHE STARのようなASP(SaaSやビジネスプラットフォームのこと)を拡大し、「コードを減らし、保守コストを下げる」などビジネスモデルの生産革新を図り、収益性を高める。「本業の深化・拡大と進化を図る」と、此本氏が本業の取り組み方を説明する。
その中に、もちろんDXも含まれている。「顧客や業界の変革に加えて、社会の変革に挑戦する」とし、既存ビジネスの深化と新事業の創出に向けて、企業のビジネスをデジタルによって効率化し、新しい付加価値を生み出すDX1.0から、全く新しいビジネスモデル産業を生み出すDX2.0、社会全体をデジタルでトランスフォームするDX3.0へと、2030年に向けて広げている。今のところ、DX1.0が多く占めるが、「社会や国、コミュニティの生産性向上を図る難易度の高いDX3.0に挑戦する」(此本氏)。
問題は、人手不足から生産性向上のニーズが高まるとともに、IT人材獲得競争がいっそう激化していること。NRIにとっても、人員確保が企業の成長力に直結するので、2022年度の新卒399人、キャリア335人の採用を、2025年度に新卒約500人、キャリア約370人に増やしていく計画。ちなみに同社の従業員は、NRI単体が約6500人、NRIグループで約1万6000人になる(2022年3月末)。
SIサービスからコンサルティングサービスへ
本業の生産革新などによって、営業利益は2022年度の1118億円から2025年度に1450億円と、332億円の増益を計画する。増益の内訳は、本業の増収などで2分の1、既存IT資産の効率化など生産性向上で4分の1、グローバル事業で4分の1をそれぞれ稼ぎ出す。ただし、DX3.0やDX2.0の新規事業が収益に本格的に貢献するのは、次の中計からになるだろう。それまでに、新しい業種横断型ビジネスプラットフォームの品ぞろえ、グローバル事業の強化、生産革新を推進していく必要もある。
本業の生産革新には、既存IT資産の機能統廃合やクラウド移行などモダナイズ、開発フレームワークの刷新、開発プロセスへのAI活用などになる。「金融ビジネスプラットフォームは断捨離し、シンプルにする」(此本氏)。ネット銀行に新規参入する企業向けにもするためだ。テスト工程にAIを活用し、工数を50%削減した。さらにAIプログラム生成で開発工数の削減し、適用を拡大させていく。
2022年度の1232億円から2025年度に1500億円、2030年度に2500億円以上を計画するグローバル事業は、M&Aによる拡大フェーズから安定成長と収益向上を図っていく段階に入る。オーストラリアで苦戦する金融プラットフォーム会社はリストラに加えて、エンジンをSTARに切り替える。北米では、2021年末に買収したCore BTSの中核事業を、シスコのネットワーク機器販売などから、クラウドのコンサルティングやアプリ開発にシフトさせる。その一環からCFOをCEOに昇格させるとともに、営業のリスキリングし、2022年夏から回復傾向にあるという。
以上の取り組みから見えてくるのは、NRIはSIや運用からASPを含めた成長率の高いコンサルティングサービスへシフトすること。2022年度の実績をみると、コンサルティングサービスの売り上げは前期比約25%増の1565億円と大きな成長と遂げている。だが、この領域は、企業革新や再生などに取り組む外資系コンサルティング会社が実績を持つ。此本氏は「(彼らに)大規模な基幹系システム構築の実績はない」と、大規模システムの構築力と磨き上げた強力なビジネスプラットフォームやASPとの組み合わせで勝負できるとの見方をする。だが、外資系コンサルティング会社は今、SIサービスに力を入れ始めている。甘くみてはいけない。(田中克己)