「スタートアップを一緒に立ち上げ、育てる」。NECの先端技術を核としたオープンイノベーションによる事業立上げをシリコンバレーで展開するNEC Xの松本眞太郎CEO兼社長は創業7年を経過し、次のフェーズに進み始めたことを明かす。
同社は2018年にシリコンバレーの起業家らと北米でのビジネスをスタートする。NEC研究所の研究・開発成果をスタートアップに提供し、ライセンス料を得たり、投資したりする。設立当初、シリコンバレーにNECの技術を持ち込み起業する形は、NECの子会社とみられてしまった。そこで、周りを巻き込む形に変える。起業家のアイデアをインキュベーションし、立ち上がったスタートアップに投資するというもの。
その基準の1つは、NECの製品と技術が貢献可能な市場に精通している起業家に提供し、スタートアップを生み出すこと。例えば、携帯電話基地局の技術を、スタートアップがドローンに小型基地局を載せて、電波の届かない山間部などでの救助活動に活用する。こうした事業化はすでに24件になり。累計7000件の中から選択し、これまでに300件以上のスタートアップを支援してきた実績がある。
2つめは、NECの技術ではなくとも、製品化が早く、投資リターンを期待できるスタートアップになる。事業が面白いスタートアップに投資するということ。同社主催の公募を年2回開催し、合計約800件から書類検査を行う。彼らのピッチから30件に絞り込み、最終的には2~3社に最大3000万円程度を投資する。投資先はヘルスケア、DX関連、フィンテック、エドテックなど幅広い。アイデアだけで応募する起業家もいるが、プロトタイプを持ち込んだり、すでに初期顧客を獲得しているスタートアップもある。
3つめは、社外の優秀で多様性のある人材を活用すること。60歳超の医師が病院経営を辞めて、ヘルスケアのスタートアップを起業した例もある。「いつでも勝負できる意気込みと、他人から学ぶ姿勢がある」。そんな人を見極める力がいるという。
4つめは、起業家が説明する伸びる市場であること。これはNEC Xだけではなく、北米市場に詳しいアクセラレータや研究者、エンジェル投資家らに評価してもらう。また、NEC Xでもプログラム期間中、伴走支援することで起業家の人となりやNECとの相性を丁寧に確認していくこととしている。
注目したのは、2024年にスタートした「NEC Xコーポレートメンバーシッププログラム」だ。スタートアップの最新動向や見極め方、メンタリング・ノウハウを共有したり、事業見極め力などの人材育成や新規事業サポート、自社技術の事業化などを支援したりするもの。メンバーにスタートアップを見極めるなど、協業の判断力を養ったり、まったく新しい事業創出の機会を提供したりする。メンバー企業は目下のところキヤノンやヤマハなど8社で、ワークショップを開いたり、社内事業開発の支援をしたり、ディープテックの起業家向けの打ち出し方をコンサルティングしたりもする。
松本氏は「想像以上に引き合いの多いこのサービスを通じて、日本企業の新規事業創出向けのエコシステムプラットフォームにしたい」と意気込む。年間約1000件のスタートアップ・データベースを活用し、事業の見極め体験や新規事業のサポート体験などから、日本企業の新規事業創出を加速させる環境を構築する考え。(田中克己)






