ガートナーのバイスプレジデントを務めるアナリストのアダム・プリセット氏は8月27日のデジタル・ワークプレースサミット2024で、「デジタル・ワークプレース戦略を策定するための7つの展望」を解説した。従業員が最高の成果を実現できるように、テクノロジーとエクスペリエンスを提供すデジタル・ワークプレース・リーダーが、これからどのように仕事が進化し、今後のトレンドに備えて何をすべきかについて知っておくべき7つを披露した。
プリセット氏は「どこで働くのか」、「誰と働くのか」、「どのように働くのか」の観点から説明する。まず「どこで働くのか」は、勤務時間を短縮に通じること。そこで、展望1は「2028年までにオフィスへの復帰を義務付けている組織の25%は、勤務時間を短縮する」。週休3日制を採用する企業が増えている中で、マネージャーが部下に出社の頻度を増やすように命じたらどうなるのか。
同社調査によると、3分2が「出社数を増やすことを期待している」ものの、81%は「マネージャーは直属の部下にオフィスへの復帰 (RTO) を義務付けるよう命じられている」と回答する。だが、オフィスの復帰策が、出社かリモートかでリーダーとチームの対立を生み出し、緊張を高めているとする。解決策は、ワークライフバランスを再調整すること。端的に言えば、労働時間を短くすることを経営者と交渉する。退職の防止策でもある。同社長でも、働く上で最も重要なことの1位は給与、2位は職務の満足度、そして3位がワークバランスになる。
展望2は「2028年までに、大企業の倉庫管理部門の40%が、従業員の意欲を高めるために従業員エンゲージメント・ツールを導入する」。米国のGDPの成長率は2.5%と予測されている。一方、米国の運輸業界の現場労働者数の伸び率予想は1.1%だ。そこで、物流担当者はテクノロジーに投資し、ドライバーに会社に残ってもらう策を策定する。例えば、ワークフォース管理、コミュニケーション・アプリの導入、柔軟なスケジュール管理、ゲームフィケーションなどになる。
次は誰と働くのかになる。展望3は「2028年までに、デジタル従業員エクスペリエンス (DEX) リーダーを擁する組織は、先進テクノロジーからメリットを得られる可能性が60%高くなる」。DEXに組織の成否がかかっているということ。これまで注目されていなかったが、何をするのかが生産性向上への道を示すことになる。
展望4は「2027年までに、先進国の国民の50%は、AIパーソナル・アシスタントを日常的に利用するようになる」。例えば、アマゾンのアレクサを仕事で使うこと、ウオールマートがチャットボットを仕入れの購入に使う。その割合は60%にもなる。セールスフォースのチームボットは、新規開拓のためのリードをみつけ出し、成約まで導く。
展望5は「2026年までに、Microsoft CopilotとGoogle Geminiは、それぞれのユーザーベースの20%未満にしか普及しない」。プリセット氏は「すごいなら、100%普及するはずだ」と指摘する。価値が証明されていない。つまり、大幅な生産性向上には、変化に時間がかかるということ。「AIにどのくらい支払っているのか。テクノロジーを買うための証明がない」。加えて、AIへの信頼はまあまあのレベルで、完全に信頼しているのはわずか1%だ。なので、100%投資はできない。
次はどのように働くのかだ。展望6は「2028年までに、従業員の20%は柔軟な働き方を生かして成長し、得られたスキルを積極的に社内人材マーケットプレースに提供するようになる」。スキルを登録し、プロジェクトとマッチングする。実は労働力の22%がフリーランスなのだ。ハイブリッド・ワークをする従業員の4分の3以上が「会社が柔軟な働き方を廃止した場合に退職する可能性がある」とする。しかも、オフィスへの復帰を義務化した企業の42%が予想よりも高い従業員の離職を経験している。従業員の40%がデジタル・サイド・ハッスル(デジタル業務の兼任) を行っているという。
展望7は「2027年末まで、CIOの25%は拡張コネクテッド・ワークフォース関連の取り組みを通じて、重要な職務の遂行能力を獲得するために必要な時間を50%削減する」。拡張コネクテッド・ワークフォースとは、入社の初日から仕事ができるようにすること。特定の標準を使って仕事をする場合でも、先輩に聞くのではなく、テクノロジーに尋ねるほうが分かるということ。例えば、家電量販店のホームデポは新しい人が入ると、在庫システムの使い方やドキュメントの確認などに活用しているという。
プリセット氏は、IT部門は展望の1から7を使って、働き方の計画をつくり、AI活用の効果を出す。「未来の仕事がどうなるのか」、先手を打つことでもある。(田中克己)