福岡県北九州市がIT企業の誘致に力を入れている。産業経済局企業立地支援部IT産業誘致担当課長の山下孝之氏によると、2019年から2021年の3年間で30社が進出を決めるなど、この9年で合計142社にもなるという。今年2月に市長に就任した武内和久氏が電気自動車と半導体、宇宙の3つの産業に期待し、大学や企業などの連携強化の方針を打ち出している中で、IT産業はそれを支えるものでもある。
同市には、IT人材を採用しやすい環境もあるという。大学や高専などの理工系が14校あり、毎年約3000人の人材を輩出しているという。ところが、その8割が卒業後、市外に出ていく。魅力的な働く場所がないこともあるのだろう。そこで、IT企業などに伴走型の人材採用支援をする。例えば、市職員が企業担当者とともに学校を訪問したり、学内出張企業説明会を実施したり、学生とのマッチング・イベントを開催したりする。企業誘致を推進するネットワーク「IT Scrum KitaQ」も今年8月に立ち上げた。オフィス賃貸や新規雇用などの補助金も用意する。オフィスのリノベーション補助金、スマートビル検束促進補助金などもある。進出体験の支援として、北九州市までの移動費や宿泊費なども補助する。
投資会社が1200億円を投資し、数年以内にパイパースケール型デーやセンターを建設することも決まるなど、北九州市はものづくりDXの視点からのビジネスチャンスもあるという。同市産業経済局地域経済振興部次世代産業推進課ロボット・DX推進担当課長の大庭繁樹氏は、中小企業向けDXとGXに力を入れていることを明かす。背景にあるのは、100万人都市だった同市がこの数年、毎年5000人の人口減少が続いていることにある。しかも、市にある企業の8割が中小企業で、その生産性を高め、地元での働く場所を増やすことにもなる。
その一環から中小企業のDX、SXを支援する施策を打ち出したというわけだ。市内の4万事業所の競争力をつけるために、約50人のIT専門家が無償で事業変革などのコンサルティングを提供する。経営者向けに変革カリキュラムを早稲田大学や野村総合研究所などと作成もした。このほか、ユーザーと支援する企業で構成する北九州市DX推進プラットフォームがユーザーの悩み相談にのったりもする。だが、サービスを受けた中小企業は400社弱と少ない。なお、9月末に実施したITビジネス研究会の福岡スタートアップ視察ツアーで、同市を訪問したおりに話を聞いたもの。(田中克己)