ノーコード開発ツールやローコード開発ツールの導入が活発化している。IT人材不足やバックログの増加、短期開発などが内製化に向かわせたことが背景にある。ガートナージャパンによると、ローコード開発テクノロジーの市場規模は2023年の269億ドルから2026年に445億ドルに拡大するという。従業員2000人以上の大手企業の約4割がローコード開発ツールを活用し、一定の効果も上げているという。だが、過剰な使用がアプリケーションの無秩序の増加を招くおそれがある。
ガートナージャパンのリサーチ&アドバイザリ部門でシニア・ディレクターを務める飯島公彦氏が6月14日の同社主催セミナーで提案したローコード・アプリケーション開発プラットフォーム(LCAP)を活用する最良方法を紹介する。LCAPとは、ローコード型の宣言記述やビジュアルなプログラミングの抽象化表現 (例:モデル駆動やメタデータ・ベースのプログラミング) をサポートするアプリケーション・プラットフォームのこと。
ガートナーによると、新規アプリの約75%がローコード開発ツールで開発されているという。しかも、同ツールを使うユーザーの80%がIT部門以外だという。同社はそれを“市民”と表現する。その一方、IT部門が知らないところで使わるとともに、適用範囲を拡大させていった、過剰ともいえる活用が新たな問題を作り出し始めている。誤った使い方やアプリの保守、データのサイロ化、セキュリティなどだ。レガシーシステムの近代化に取り組んでいるIT部門に構築したアプリのサポートなど支援を求め始めてもいる。その前に、LCAPの活用法を示すことの重要性を説く。
具体的にはまず、ローコード開発活用の戦略を策定すること。ツールを何のために使うのかだ。実はLCAPはローコード開発ツールの専業ベンダーだけではなく、サービスナウやセールスフォースなども提供しており、多くの種類がある。プロのITエンジニアが使うもの、市民が使うものがあり、無意識に使っていたら、問題を引き起こすことになる。それぞれの特徴を理解し、間違った使い方をしないことなど、利用指針を作る。目的を明確にし、ユースケースも作る。開発するアプリや市民のスキルにフィットするものを見極めるためだ。スクラッチ開発したり、SaaSを活用したりする選択肢もあるので、システム全体の中で、ローコード開発の位置付けも決める。
2つめは、実案件に近いPoCを実施し、LCAPやツールを評価すること。作法を標準化し、開発の生産性を最大化するためでもある。3つめは、市民を支援するチームを作ること。成果を確実に上げるうえで、市民のスキルとツールの機能をマッチし、選択することが重要になる。4つめは、適応型ガバナンス・フレームワークを適用すること。市民にツールの活用を制限すると、やる気を失うことになりかねない。そこで、市民が担うこと、IT部門が担うことを明確にする。もちろん、その中間の曖昧な部分もあるので、ガバナンスの規模を調整する。
5つめは、アプリのオーナーシップに関するポリシーを定義すること。市民が作るので、グループや部門で共有することになる。アプリの保守を誰がするかも重要になる。作った人が他部門に移動したり、退社したりしたら、オーナーシップを移管するルールを作る。IT部門が保守サポートに追われないようにするためでもある。6つめは、コミュニティを形成すること。「IT部門だけでサポートするのは、非現実的だ」。そこで、IT部門が支援チームを作ったら、市民代表らも参加する。市民がスキルをつけながら、知識を共有し、支援チームを小さな組織から組織横断にしていく。7つめは、スキルの育成と維持の時間を設けること。「正しい解決策には、正しく作る法がいる」。ローコード開発ツールのスキルに加えて、業務をどう解決するかのスキルが必要になる。業務全体を早く作る。アプリ開発の効率化、品質向上も「図る。(田中克己)