富士通が100%出資で立ち上げたコンサルティング会社Ridgelinez(リッジラインズ)は、間もなく4年目に入る。ユーザー企業のDX支援を主なビジネスにするが、それを通じてITシステム作りの基本に立ち返ることを示す狙いがあるとみた。35年ぶりに古巣に戻り、リッジラインズのCEOに就いた今井俊哉氏は「クラウアント・ファースト」と、同社の立ち位置を説明し、これまでとこれからを語った。
今井氏はリッジラインズの設立背景をこう思っていた。ITベンダーの役割は、ユーザーが何をしたいのか、どんなことを達成したいのか、をコミュニケーションし、相談しながらシステムを作り上げていくことにある。だが、日本のITベンダーはユーザーが要件を固めてから、それにそってシステムを構築する、いわば人月ビジネスになっている。そこに戦略コンサルティングからシステム構築までを手がけるアクセンチュアなど外資系コンサルティング会社が現れ、国内SI市場で勢いを増している。30年前、意識もしなかった彼らにシェアを奪われはじめたことに、ITベンダーの経営陣はさぞ危機感を募らせたことだろう。
もちろん日本のITベンダーもコンサルティングを手がけている。ユーザーと議論する営業やSEはいたものの、問題は「お金をもらうビジネス」として引き受けてきたのかだ。システム要件が出てくるまでは、ユーザーとコンサルティング会社の仕事と思っていたフシがある。対して、今井氏は「リッジラインズは、ユーザーの困り事と課題に正対し、どう解決するのか、考えられる会社にしたい」という。
DXプロジェクトにPMOとして参画する
リッジラインズは2020年4月、富士通総研と富士通からの出向を中心に245人で事業をスタートした。この3年間に従業員は400人超になり、出向者の半数は富士通などに戻ったり、転職したりする。事業は、ユーザーのDX支援だが、とくに日本企業が苦手なX、つまりトランスフォーメーションの手伝いをすること。たとえば、今の経営資源を再配置する。限りある経営資源が、経営者の思っている形でなかったら、変えていく。人材を入れ替えることができないのなら、社内の人材を活かせることを考える。それがリスキリングになる。
だが、リスキリングは時間と労力がかかる。そこで、テクノロジーを使って、Xを加速させる。たとえば、何かの業務をロボットに任せて、その時間を顧客接点に振り向けるとかだ。そんなことを経営者に張り付いて助言するコンサルタントは、経験豊かな人材なのは当然のこと。今井氏から10数人がスタート時に参画した。
たとえば、DXプロジェクトにPMOとして参加する。Xには、組織構造を変えることもある。給与や人事などの制度を見直することもある。そんな新しい仕組みを一緒に作り上げていくが、成果や効果がすぐに出るわけではない。翌年、翌翌年になるかもしれないので、待ちきれずXプロジェクトがとん挫しまうこともあるだろう。今井氏は「これまでと違うやり方をしなければ、違う結果は出てこない」と、たしなめる。だからこそ、経営陣も従業員も合意のうえで、一緒になって、Xを推進しなければ、うまくいくはずはないということ。
今井氏によれば、Xのトリガーは、たとえばSaaSのSAP HANAに切り替えるときだ。当然、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)が伴うが、IT部門がそれを推進しようとすると、社内から「お前らに何が分かるのか」と、反対や無視されたりすることもあるだろう。そこに、PMOの存在価値がある。経営者はHANAなどへの投資に対するリターンを求める。コストの削減なのか、収益増なのか。経営者はそれに向けて、どこをどう変えたいのか、どこまで変えるのかを理解する。「たとえば富士山を目指すのか、高尾山を目指すのか」、あるいは「売り上げを10%アップするのか、業界シェアを4位から3位にするのか」といったこと。売り上げかシェアかは、目指す姿による。その仕組みをシンプルに作り上げる。
それに応えるコンサルタントが不足しているという。同社にはDXテクノロジーコンサルタント(技術的な妥当性や検証可能性などの分析を担う)とDXストラテジーコンサルタント(変革の方向性や達成すべき目標をどのように実現するかを考え、目に見える形にする)、DXコンピテンシーコンサルタント(環境変化など業界事情を十分に把握した上で、顧客が目指す真の目的や達成目標を明確にする)と、テクノロジーや業種ごとなどに分けて配置をする。
加えて、コンサルティングの標準化に取り組む。属人的な方法では、一握りの人材にしか、DX支援ができないことになる。たとえば、ツールを組み合わせて、次のクラスのコンサルタントに似たような仕事が可能になれば、生産性は向上する。人数に依存するビジネスからの脱却はいずれ必要になる。アバターのコンサルタントが生まれるかもしれない。たとえば、10個の質問をし、そこから課題を理解し、AIが「これとこれになる」と、解決策を提案する。実現できているわけではないが、組織運営や人材育成などで先行する外資系コンサルティング会社との差異化を図れる新しい方法を編み出すことは重要だろう。
コンサルティングの最後はシステム構築になるが、ITベンダーを選定するのはユーザーになる。「コンサルタントはクライアントファースト」なので、富士通ではなくても構わない。実は、この部分の付加価値は高くない。たとえば、導入した基幹システムに機能を追加するなら、ローコード開発ツールを使ったり、ワークフローや営業支援などの既製品を使ったりし、モジュールのように必要な機能を追加できるようにしていく。APIで容易につなげられるので、ここでも属人性をなくなる。つまり、コモディティ化していく。そうなれば、伝統的な請負型SIビジネスはどんどん減少していくだろう。
リッジラインズは、日本のITベンダーに構造転換を促そうにしているように思える。問題は、経営者にXの意志があるかだ。