「DX(デジタル変革)を阻害する21の習慣病が日本企業にある」。アビームコンサルティングで、AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などのデジタルツールを駆使した企業変革に取り組んでいる安部慶喜執行役員はこのほど、DXを阻む要因をこう分析し、治療の提案をはじめた。
日本企業がなぜ、海外企業に比べてDX化に遅れたのだろう。安部氏によると、日本企業は先端技術の調査や検討をいち早く着手する。「日本はAIやIoT、ビックデータの調達や検討を早く取り組んだ。情報収集力もあるし、資金力もある」(安部氏)。たとえば、AIは1956年から、IoTは1999年から、ビックデータは2001年から調査、検討を開始しているという。
研修にも活発に取り組む。たとえば、三井住友海上火災保険が営業社員約5000人にデータ研修を実施したり、日立製作所が約16万人にDX研修したりする。大手はIT投資も増やす。「日本企業がDXに向けた社員の再教育に乗り出し、データや知識が富の源泉となるデジタル時代を迎え、投資の対象はモノから人材へシフトする動きが強まっている」(同社)。だが、DXに成功したという話は聞こえてこない。
DXの遅れは、国際競争力を失う。スイスの国際経営開発研究所(IMD)が2020年9月に発表した世界デジタル競争力ランキング2020で、日本は63カ国中27位と前年より4つも落とす。デジタル技術の利活用能力、知識と技術、将来への準備度合の3つで評価するもので、日本はその中のビッグデータ活用やデジタル人材のグローバル化、企業の変化迅速性で調査対象国の中で最下位だったという。時価総額ランキングでも、1898年のトップ50に占める日本企業は30社あったが、2020年にはトヨタ自動車1社だけになってしまった。
原因はいくつも考えられる。1つは、求める人材にある。「これまでは、なんでもこなせるゼネラリストで、あたえられた指示を正しく遂行する」(安部氏)。加えて、評価も失敗を許さない減点主義だった。それ以上の課題は「価値観が変わっているのに、50年続いた成功モデルを変えられないこと。企業の隅々に成功時代の習慣が残っている」(同)。
安部氏は「(過去30年以上の)成功体験に根差した習慣病がDXを阻む本質的な理由」と指摘し、治療すべき習慣病が21もあるという。その1つの「不明瞭な観点で、何度も承認」は、何度も承認したり、ミスがあったら二重、三重にチェックしたりすること。何をチェックするのか、曖昧なままに作業することから、承認の観点を明確にし、観点ごとの担当者が責任を持って承認する1観点1承認にする。そのためにも、定期的な単純な照合やチェックの作業をデジタル化し、人とデジタルで役割を分担する。人の担う作業が多すぎるので、まずは単純作業をRPA化する。
組織間の壁を生むピラミッド構造も習慣病の1つだ。上意下達、名ばかり管理職、指示待ち社員が蔓延り、情報共有を難しくする。情報共有の時間を短くするうえでも、安部氏はフラットな組織を提案する。階層を減らすことが情報共有や意思決定のスピードを上げられるからだ。加えて、経営は失敗を恐れる過剰な完璧主義や安全志向を改める。「ミスや手戻りは、人を成長させる」(同)。
情報システムの完璧も改める。1つ終えてから、次に進むウオータホール型からアジャイル型にする。「まず試してみる。試してダメなら、戻せば良いとの思想を持ち、新技術の試用・検証サイクルを短期間で回す」。デジタルの検討時間は短く、時間をかけずに作り、問題があれば、修正、改善していく。
安部氏は習慣病を直し、DXを成功に導く3つのカギも示す。1つは、経営トップが号令を出し、組織や制度、ルールも含めた改革に取り組むこと。2つめは、改革の小さな成功体験を積み重ねること。「大型投資による全社いっせいの改革はなかなか進められないので、少しずつ変えいていく」(安部氏)。たとえば、単純業務をRPA化し、1部門の小さな成功を作り上げる。失敗も経験を積める。3つめは、企業文化を変えること。「人の意識を変える」(同)。
アビームはまずRPA化に取り組むことを説いているように思える。(田中克己)