スタートアップワールドカップを主催する米ペガサス・テック・ベンチャーズのアニス・ウッザマンCEOが6月20日、7月18日に開催する東京地域予選について、ヘルスケアやAI関連、半導体チップ、宇宙関連、農業、金融など200社超の申し込みがあったことを明かした。シリコンバレーを拠点にするベンチャーキャピタル(VC)の同社は、世界約100カ国でスタートアップワールドカップの地区予選を行って、10月17日に米サンフランシスコで最終決勝戦を開催する。日本では熊本、仙台、東京の3カ所で予選を実施する。
日本政府がスタートアップ育成の5カ年計画を策定し、米国に進出したり、米国で創業したりするスタートアップが増え始めているものの、問題は日本のスタートアップが国内中心のビジネスになりがちなこと。アニス氏は「日本での資金調達は米国の40分の1程度」と大きな資金調達の難しさを指摘する。CVCなども生まれているが、1社あたりの投資額が小さいからだ。株式上場が出口戦略の1つとなり、問題は年商10億円程度の小規模で上場し、ユニコーンにはなかなかなれないということ。先進的なものに取り組みなど、大きな夢を描いてほしいということだろう。例えば、日本の予選に参加するAI関連が全体の20%程度を占めるが、米国は約80%にもなる。
一方、イノベーションの拠点ともいえるシリコンバレーに優秀な人材が集まらなくなる懸念がある。米政府が外国人の受け入れを制限しようとしているからだ。アニス氏は「短期的には影響するだろうが、シリコンバレーのエコシステムには厚みがある」と、心配していない。スタンフォード大学などの教育機関があり、グーグルやアップル、エヌビディアなど大手が本社を構える。VCなどの投資家、アクセラレータなど育成インフラも整っており、資金が集まる。もちろんマイナスの影響はある、ビザ審査などから中国やインドからの優秀な研究者やエンジニアが米国以外にいってしまうこと。逆に、それに代わる人材が集まってくる可能性がある。米大学にも米国人が入りやすくもなるという。
米国のAI開発競争力を懸念する声があるが、アニス氏はユニークな見方を披露してくれた。オープンAIなど米AI企業のトップの多くが米国出身者だということ。「IBMやマイクロソフト、グーグルなど巨大テック企業のトップはインド出身」と反論する人もいるが、いずれも創業者ではない。米国は新しいものを創り出すことを得意とする。「AIのトップ10社の創業者の多くは米国人」。もちろん現場のエンジニアは中国やインド出身者が多くいるが、中国が減ったら、そのポジションに他国の人材が担うということ。
そのAIの1つのエリアである産業の自律型ヒューマノイドロボットをみても、「製品として出荷しているのは米アジリティ・ロボティクスだけだ」(アニス氏)。テスラはこれからになる。中国で開発しているのは、工場の自動化を図るロボット。つまり、AIの研究・開発で大きく先行する米国がここでも強いということ。
なお、ITビジネス研究会は日本で開催するスタートアップワールドカップ予選のメディア・スポンサーになるとともに、10月17日の100万ドルをかけた決勝戦を参観する予定。(田中克己)