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2023.05.29

富士通の新中計、営業利益率12%達成のカギはSaaSにあり

 「収益力向上のモデルを構築する」。富士通の時田隆仁社長は5月24日に発表した新中期経営計画の中で、SIやITサービスなどなからサービスソリューション事業に注力する方針を改めて打ち出した。最終年度の2025年度に、売上収益4兆2000億円、調整後営業利益5000億円、営業利益率12%とし、要のサービスソリューション事業で売上収益2兆4000億円、調整後営業利益3600億円と、売り上げで全体の57%、利益で72%をそれぞれ稼ぎ出すことを目論む。その一方、ハードウエアとユビキタス、デバイスの3事業は横ばいを死守する構え。

 サービスソリューション事業の22年度実績は、売り上げが2兆円弱、営業利益が1600億円超だったので、売り上げを20%、利益を2.2倍、それぞれ伸ばす必要がある。売り上げは年平均成長率7%弱と、市場成長率などからも達成可能な射的距離に入っているように思えるが、利益の拡大には革新的な変革を起こさない限り難しいだろう。

 1つの策は、標準サービスの品ぞろえにかかっている。事実上、自前のIaaSとPaaSを失った富士通は、SaaSに活路を求めるしかないのだろうる。大企業の基幹システムの近代化とデリバリの標準化で生産性向上を図っていく一方、中堅企業には標準サービス、SaaSを提案する。従来型システム構築を請け負っていたら、収益率は向上できないからだ。顧客を手厚くサポートする富士通のウリは捨てさる考えのようだ。時田氏は「1社1社にきめ細かく対応するとともに、広域サービスを担うのは難しい。標準サービスをできる限り使ってほしい」と、経営資源の限界を説く。「冷たい会社と思われるかもしれない。サービスの密度が低いとキャンセルされる顧客もある」と、思いながらも、ITサービスカンパニーへ大きく舵を切る覚悟を示す。

 だが、富士通に秀でて、競争力にあるSaaSなどの標準サービスがあるのだろうか。SIでも差別化できるものがあったのだろうか。そこで、SAPとセールスフォース、サービスナウの外資系3社のプラットフォームをベースにしたシステム構築と、その周辺の標準サービスを揃え始め、その一環からドイツのGKソフトウェアを買収する。「ホリゾンタルが多くを占めているが、今後はサプライチェーンを始めとするバーティカル(業種、業務)なものを増やす」(時田氏)。ちなみにバーティカルの売り上げはわずか100億円だ。

 2つめの策は、成長エンジンと位置付けるUvance(ユーバンス)にある。時田氏によれば、単なるソリューションではなく、社会課題を解決するデジタルサービス提供の仕組みだという。ユーバンスは、サービスソリューション事業の中に含まれており、売り上げは22年度の2000億円から25年度に3.5倍の7000億円にする計画だが、ユーバンスの中身がよくわからない。それを推進するコンサルタントを今の2000人から1万人へ増強する計画だが、リスキリングと中途採用で確保できるのだろうか。

 成長の3つめに、営業利益率1%しかない海外事業がありそうだが、営業利益率3%の目標に向けて、北米など縮小していくように思える。新中計の発表でも、「ソフト・サービスへのシフトが足りない」(時田氏)、「いかに付加価値の高いビジネスに転換するか」(磯部氏)といった内容で、再生の具体策の説明はいっさい述べていない。あるアナリストは「撤退したら」と提案していた。富士通は何ものか、何が強いのか、改めて問われることになる。(田中克己)

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