アドビ日本法人がデジタルエコノミーとデジタルトラスト、デジタル人材育成の取り組みを強化している。里村明洋常務執行役員兼CMOは「世界を変えるデジタル体験の提供に、この3つが必要になる」と、理由を説明する。
同社によると、デジタルエコノミーとは、デジタルツールやソリューションで作る経済圏のこと。例えば、Eコマースを3次元化し、商品やサービスの購買意欲を高めるよう工夫すること。その制作を担うクリエイターが、映画やCMなどのプロから、消費者個人広がっている。ソーシャルメディアを通じて、自由に情報を発信しているユーチューバーはその典型になる。彼らが生み出す国内のクリエイターエコノミーの市場規模は1兆3000億円超もあるという。
その市場拡大は、アドビのソフトやサービスの売り上げ増に確実に結びつくだろう。具体的には、3つのクラウドビジネスになる。1つは、フォトショップなどサブスクで提供するクリエイティブクラウド、2つめはPDFなどのドキュメントクラウド、そして3つめが顧客体験を作るデジタル・エクスペリエンスクラウドになる。アドビのデジタルとは、これらすべてがつながっていくこと。別の言い方をすれば、チームでモノを作り、共有し、配信するということ。
企業もクリエイターの育成に力を入れる。ソーシャルメディアを活用した情報発信に自ら取り組むためで、専門家や企業に外注していたら、新しいコンテンツ作りや変更に時間がかかるからだ。コロナ禍におけるデジタル化がコンテンツ作りの内製化を加速させてもいる。
その一方、デジタルトラストの関心が高まっている。企業のペーパーレス化などデジタル化が進み始めたことにもある。PDFなどによる文書作成、電子契約、電子サインなどの普及とともに、デジタルの高い信頼性が要求される。クリエイティブの領域では、動画や画像を、「誰がいつ、何を使って、どんな編集をしたのか」といったことを分かるようにし、偽造を防止するニーズもある。そのため、コンテンツ認証イニシアティブを立ち上げ、画像の中に誰がいつ作成したかなどの情報を埋め込む方法の普及を推進している。
里村氏は、こうしたデジタル化で一番の課題が人材だという。同社は高校や大学、専門学校など教育機関向けと企業向けの育成支援をそれぞれ用意する。教育機関には、同社ツールを活用する講座を整えているが、今最も力を入れている1つがデジタルマーケティング領域における理想的なデジタル体験を創り出すこと。その一環から、関西学院千里国際高等部と提携し、データサイエンス授業のカリキュラムを共同開発した。具体的には、同校のWebサイトの来訪者データを分析し、課題発見から解決アイデア策定までのプロセスを学ぶもので、全学年を対象に22年11月から23年3月にかけて授業を行ったところ。23年度は、この仕組みを広げたいという。
一方、企業向け人材育成には、人材派遣などを展開するパソナグループと組んで、22年9月にコンテンツの作成から配信までを学ぶ研修を始めた。自社でEコマースを作成し、サイトへの訪問者などを分析し、課題を発見できるようにするもので、デジタルマーケティングの担当者らに受講してもらう。「クリエイティブ・スキルがあると、給与がアップするという調査データもある」(里村氏)と、企業内の広がりに期待もする。(田中克己)