メニュー

NEWS&TOPICS

NEWS&TOPICS

2025.04.10

O-RANの取り組みと5G収益化、モバイル通信業界イベントMWCバルセロナ2025から探る

 「5Gの収益化が一向にみえてこない」。2025年3月3日から6日まで、スペイン・バルセロナで開催されたモバイル通信業界の世界最大級イベントと言われるMWCバルセロナ2025の会場のいたるところで、収益化の議論が展開された。自動運転やドローン、ロボット、ARグラスなどへの活用が期待されているものの、5Gとしての市場拡大の見通しはたっていない。収益化につながるとする標準化と仮想化などの取り組みも数年前からあるが、世界の主要な通信事業者は5Gにすでに数10兆円の投資をしており、設備の入れ替え時期は少し先になるとの見方もある。

 標準化の1つが、MWCを主催するGSMAによる共通API構築に向けたGSMA Open Gateway構想だろう。開発者とクラウドプロバイダーに接続プラットフォームへの単一のアクセスポイントを提供するもので、2023年のMWCバルセロナで発表し、世界の通信事業者ら約70社が参画する。参画企業をじょじょに増やしながら、自動車や金融、スマートシティなどを手掛ける企業との連携を図ろうしている。

2024年9月には、世界の通信事業者が提供するネットワークAPIの共通化を図ることを目的にAdunaが設立された。スウェーデンのネットワーク機器ベンダー、エリクソンと各国通信事業者らとの合弁で、日本からKDDIが参画する。KDDIは「5Gを活用したビジネスの開発にあたって、サービス開発者は通信事業者のAPIごとに個別対応する必要があった」と、メリットを説明する。そこに共通APIの意義があるということだろう。同社コア技術統括本部技術企画本部Beyond5G戦略室長の松ヶ谷篤史氏は「5G活用の課題はマネタイズにある。自動運転やドローン配送、ロボット配送などがあるものの、なかなかスケールができない」と指摘し、APIが5G活用によるマネタイズを期待する。

 エリクソンの社長兼CEO、ボリエ・エクホルム氏はMWC2025で、「5Gの収益化を目指し、開発者による世界中どこでも使える新しいアプリの開発を促進する」などと、API共通化の狙いを説明する。同社はソフトバンクが推進するAI-RANに関する共同検討も開始する。AIとRAN(無線アクセスネットワーク)の統合ソリューションの開発を目指すもの。ソフトバンクはMWCバルセロナ2024にAI-RANアライアンスを発表し、ノキアやエヌビディアなどメンバーを増やしているところ。

 京セラもMWCバルセロナ2025でOpenRANの普及に向けて「O-RU Alliance」を立ち上げた。台湾や韓国、インドなどのネットワーク機器ベンダーらとOpenRANの普及に向けて、CU(集約ユニット)とDU(分散ユニット),RU(無線ユニット)をシステムソリューションとして提供するもので、各社のこれら機器をつなげられるように、相互運用テストやインターフェイスを提供する。同社によると、同一のネットワーク機器ベンダーから調達する、垂直統合の世界、ベンダーロックインから開放する試みとする。

 こうした複数ベンダーの機器を組み合せるインテグレーション・ビジネスに取り組んでいる日本企業が楽天グループの楽天シンフォニーと、NTTドコモとNECの合弁会社OREX SAIだ。楽天シンフォニーは2024年2月、「リアルOpen RANライセンシングプログラム」を発表し、Open RAN対応のCUとDUのソフトウエアをサブスクで提供を開始した。2025年2月には、シスコ、エアスパン、テックマヒンドラが同プログラムの初めての協力パートナーになる。楽天グループの代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は自らMWC2025の会場に乗り込み、Open RANの重要性を説いていた。OREX SAIはNTTドコモのブース内に出展し、Open RANサービス(OREX Packages)を紹介。同社CTOの安部田貞行氏は「ハードウエアの専用機から汎用機へのシフトがインテグレーション・ビジネスの追い風になり、世界の中堅・中小通信事業者からの依頼に期待する」と話していた。

 RANの仕様をオープンにするOpen RANはベンダーロックインに加えて、導入や運用コストを削減できるとするが、本格普及の兆しはあるのだろうか。本格登場し数年以上経過したが、導入は中小にとどまっている。そうした中、NTTデータが5Gコアネットワークを構成するハードウエアとソフトウエアを分離し、いろんなネットワークOSをオープンな様々なハードウエア上で動作できるようにする取り組みを始めた。MWCバルセロナ2025開催中に、台湾のネットワーク機器ベンダーUfi SpaceとネットワークOSをハードウエア上で動作させる高速・大容量・低消費電力の通信ソリューション(Disaggregated White Box Solution)の開発に向けた検証環境を構築し、ソリューションの共同開発とグローバル展開に向けた協力体制の確立で合意を発表した。

 こうしたネットワーク機器の専用機から汎用機へのシフトが加速することを期待し、MWCバルセロナ2025にデル・テクノロジーズやHPエンタープライズ、レノボのサーバー3社がブースを構え、既存機器からのリプレースに意欲を見せていた。デルは、アイルランドなどに設置した複数ベンダーの製品を組み合せたネットワークをテスト・検証するセンター「オープン・テレコム・エコシステムラボ」を紹介し、オープンな5G通信エコシステムの構築を簡素化できると提案する。HPEはインテルの新しいチップを搭載した次世代サーバーを公開し、Open RANに必要なパフォーマンス、信頼性、拡張性の強化を示した。

 だが、5Gの収益化は、思うようには進んでいないようにみえる。NECの火物丈裕テレコムサービスビジネスユニットネットワークソリューション事業部門ネットワークソリューション戦略統括部統括部長(4月1日に日本電気通信システム社長に就く)は「生成AIが5Gのキラーアプリになってきた」とする。米富士通ネットワークコミュニケーションズ社長兼CEOの水野晋吾氏(富士通執行役員EVPシステムプラットフォーム)は「MWCバルセロナ2025でAIは目立ったが、6Gへ向けての大きな変化はなかった」とする。続けて、「4GではiPhoneが出てきたが、iPhone16になっても大きな変革が生まれない」と指摘する。

 NTTデータの土井泰二・テレコムユーティリティ事業本部ビジネスプロデュース事業部オファリングビジネス統括部5Gビジネスプロモーターも「キラーコンテンツを探せなかった」と、試行錯誤がこの4年、5年続いているという。5Gへの投資を回収できず、6Gへ進むことになるのだろうか。(田中克己)

pagetop