連載「浜松スタートアップ視察」の最終回は、浜松市内のスタートアップ3社の取り組みを紹介する。
中小企業向け経理や労務、法務といった管理部門のシェアリングサービスを展開するWe willの黒野浩大取締役兼COOと事業開発部の渥美譲氏に、浜松いわた信用金庫が運営する起業家支援拠点FUSEで話を聞いた。2017年10月に創業した同社は2023年に東京にオフィスを開設し、営業活動を開始した。それまでの6年間に浜松と豊橋で獲得した同じ数の顧客を獲得したという。浜松での取り組みを活かせたからだろう。
同社はいわば下流の実務をリモートで代行するもので、フリーなどの会計ソフトの導入も支援する。当初は経理業務の代行から開始し、営業事務などへと広げていく。1人の事務員が経理などを担当し続けている中小企業にとって、ある日、当然、その担当者が辞めてしまうことのリスクが大きい。不正につながるとの報道もよくみかける。
そこで、外部の空気を入れて解決するために、バックオフィスを可視化する。黒野氏によると、オーダーメイドに対応する労働集約型サービスで、現在の社員数は約30人になる。需要拡大に対応し、今期中に20人を新たな採用する予定。料金は工数×単価になるが、初期費用30万円、月額20万円以上からになる。ユーザー数は約70社だ。競合他社はフリーランスなどを活用するのに対し、同社は正社員を活用するのを売りにする。各社ごとに異なるものの、その知見が貯まり、事務作業を集約し、サービス化も推進しているところ。
FUSEにオフィスを構えるIoTソリューション事業を展開するゼロワンは、LiDARとデジタルツインの組み合わせで、人流や混雑度、移動履歴などをリアルタイムに把握する市場を狙う。2019年設立の同社は現在、病院やクリニック向けIoTソリューションを提供する。人検知センサーで、室内の混雑状況や人がどこにいるかを把握し、その情報を公開し、「今は混雑しているので、明日にしよう」といった行動変容にもつなげる。ウイルスやカビ、化学物質を殺菌したりし、室内環境を維持することにも取り組む。
地元の鉄道系企業に勤めてきた内山隆史CEOによると、製造業向け生産管理システムの開発にも着手し、25年後半にもリリースする予定。工場内での「ひやりはっと」などを可視化し、情報を共有する。工場の様々な機械の稼働状況や工員の熱中症などをアラートで警告もする。転倒の検知や危険地域への侵入警告もする。AIカメラなどで作業状態を監視するもので、ある製造業でPoCによる成果を検証しているところだという。
浜松駅から車で約20分のところに本社を構えるパイフォトニクスは、光パターン形成LED照明「ホロライト」を開発、販売するベンチャー。例えば、工場内の危険ゾーンを光で可視化して周囲の作業者へ注意喚起し、事故を防ぐことに活用できるという。池田貴裕代表取締役は「当社はベンチャー企業で、短期間でJカーブを描くスタートアップではない」と語り、こつこつ積み重ねて成長していくことを強調する。
同社は2006年に創業し、3年間は池田氏1人でLED照明ビジネスに取り組んでいた。池田氏は徳島大学を卒業し、浜松フォトニクスに研究職として入社する。その後、MITの客員研究員にもなり、ポートグラフィックの研究などに取り組む。帰国後、起業のために光産業創生大学院大学の博士号課程に入る。同大学院は浜松フォトニクスの会長が創設し、新産業を自ら実践する人材を育成することにある。「ニーズとシーズを融合し、産業創生の循環を生み出す」。
池田氏は大学院でプロトタイプを作り、商品化する起業家精神を学ぶ。新しいことに挑戦することも学ぶ。「ルーチンワークは、チャレンジ精神を失う。張りがなくなる」。そんな中で浜松市の観光協会から、「大草山のライトアップの話が舞い込んできた。光が新しい価値を提供し、関係性を変えていく」と、期待を超えると感動になると思って引き受けたという。現在、社員は約40人になり、売り上げを用途別にみると、83%がクレーンなど安全関係、11%が実験など、6%がイベントなどの演出、となる。駅前のムクドリを追い払うことに活用され、テレビ放映されたこともあり、鳩やカラスの対策にも使われているそうだ。プロジェクターの100倍の明るさがあり、コロナ渦に駅ビルに医療従事者に「アリガトウ」という文字を映したこともある。
池田氏は名証ネクストへの上場も目指す。上場で海外のクレーン市場などの開拓も強化する。鉄鋼関係などの展示会にし、韓国やインド、メキシコなどの工場に採用された実績もある。「そのための人材を、ハローワークを通じて3人の外国人を採用できた」。海外売り上げは全体の10%だが、「いずれは海外売り上げを国内の3倍の規模にしたい」と、池田氏は意気込む。(田中克己)
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