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2022.08.29

ソフト業界の多重下請実態調査、中抜きが業界の価値低下招く

 公正取引委員会が22年6月に公表した「ソフトウエア業界の下請け取引の実態調査」によると、大手IT企業が下請けに対する買いたたきや仕様変更の無償対応要求などがいまだにしていることが見えてきた。18年ぶりの下請け調査になるが、IT産業の構造は旧態依然のままなのか。回答者の比率は、元請けが40%超、中間下請が38%超、最終下請が21%超で、従業員4人以下の事業所が4割を占める。30人未満に広げると、8割にもなる。フリーランスの増加傾向もうかがえる。

 下請取引の依存度は、9割以上とする依存率の高い事業者が全体の3分の1強も占めている。とくに最終下請が44.6%と高く、取引先の社数でも5社未満が7割超、1社も約2割ある。つまり、特定事業者との取引に依存しているということ。年商200億円クラスの上場会社でも取引先の上位10社で売り上げの7割占める受託ソフト開発会社もある。最も取引額の多いIT企業への依存度になると、最終下請は50%以上が5割、90%以上が17%超もある。

 そうした中で、優越的な地位の濫用規制や下請法に抵触するような要求のあった下請の中で、約4割が「泣き寝入りした」と答えている。「泣き寝入りしたが、二度と取引しないことにした」も約3割あり、合わせると7割超にもなる。問題のある行為を受け入れるのは、「継続的な取引先なので」と、諦めを感じる回答が多くを占める。

 報告書は「多層化がかなり進んでいる」とも指摘する。ある個人事業者は6次下請けの技術者として参加したという。準委託契約で最大5社が中間に入っていることもあるという。そんな契約の中で、ユーザーからの値切られたことを理由に、元請けのIT企業が下請に減額を要求することもある。元請け、元請け子会社、元請け子会社の関連会社、下請けの流れで、当初の提示見積額100とすれば、最終契約額は50になる。加えて、ソフト開発は現金決済が多いこともあって、たとえばユーザーの支払いが遅れると、下請けにしわ寄せがくる。

 中抜き事業者の存在もいまだにある。「中抜き事業者の存在を感じた」との回答は、中間下請が約3割、最終下請が3割超もある。業務に携わらない事業者の存在は料金を高くするだけではなく、責任の所在を不明確にもする。「注文書が、本来の発注者からではなく、その子会社や孫会社から発行され、当社の請求書はその子会社や孫会社宛てにするように指示された」といった声を報告書は紹介する。公取委は、多重下請産業構造の問題から生じる独占禁止法や下請法上の問題に厳正に対処すると改善を求めている。

「買いたたき」など下請法を理解し、優越Gメンに訴える

 そこで、「買いたたき」や「不当な給付内容の変更」など下請法に触れる経験を尋ねたところ、「買いたたき」(16%弱)と「不当な給付金の変更」(14%超)、「下請代金の減額」(13%超)の3項目が10%を超えている。ただし、発注者との料金交渉をしているのは6割超になる。半面、交渉が出来ていないとするのが、最終下請に半分弱もあり、15%超が「買いたたき」を経験もする。理由も、「予算がたりない」や「今度、何かの案件で埋め合わせをする」などといった適当な言い訳が少なくないという。

 不当な給付内容の変更を経験したのは、15%弱もある。最も多いのが、「発注後に作業の内容がコロコロ変わる上に、追加費用分が無償対応だった」との回答だ。見切り発車し、不必要になった分を作業済みなのに解約されたこともある。不当なやり直しの経験も8%ある。仕様変更や機能追加を無償で対応させられることだ。完成していても受領を拒否された経験も10%弱あった。元請けがユーザーから開発を解約になったので、下請も解約されてしまう。アジャル開発になると、仕様変更が激しくなり、発注書にない作業を危惧する声もある。

 下請らが優越的地位の濫用規制や下請法を知らないことも大きな問題だとする。知識がないと思われる回答は5割弱もある。「今回のアンケートで初めて知った」との無知な事業者も約4%あった。なので、下請法の対象になるのか確認できていない最終下請が2割超もある。

 報告書は最後に今後の対応にも触れている。問題点は、「下請代金にまつわる下流しわ寄せ型の問題とソフト制作取引の特性に係る問題」と「中抜き事業者の介在による弊害」、「エンドユーザー・元請事業者を発端とする問題」の3つになる。いずれにしろ契約内容を明確することにつきる。中抜きの存在は、多重下請構造というIT産業の価値を低下させるだけなので、排除する。

 公取委は。下請法など関連する法律の知識習得を支援もする。その一環から22年2月には「優越的地位濫用未然防止対策調査室」を設置する。「下請法の適用対象とならない取引であっても、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当するおそれが あることを明確化した」。22年5月には、関係事業者に対する立入調査を行う「優越Gメン」を創設する。優越GメンがIT産業の実態にメスを入れるのか注目したい。(田中克己)

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/jun/220629_sw_03.pdf

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