大塚商会の創業者である相談役名誉会長の大塚実氏が9月7日、亡くなった。96歳だった。取材で思い出すのは、創業の1961年から社長を務めた実氏が東証一部上場の翌年(2001年)に会長になり、息子の裕司氏が社長に就いたおり、実氏は「私は助手席にいて、いつでもブレーキを踏めるようにしている」と語ったこと。もう1つは、筆者が販売店向け講演をしたおり、大した内容ではなかったのに最前列でメモを熱心にとられていたこと。恐縮してしまった。
その理由が分かったのは、2011年11月の創業50周年感謝会のこと。挨拶にたった実氏は「常に病的なまでに不安感を持ち、現状に満足しないこと。蒙古はいつ来るのか分からない」と語り、蒙古襲来、つまりライバルの出現を常に考えていることを明かした。「遠くに雲がみえたら、すぐに飛んでいって調べてみる」と、少しでも異変を感じたら、自ら確かめるという。
もう一つの実氏の信条が“うさぎより亀の歩み”だ。コツコツと正しい方向に歩むこと。潜在能力を持っていても、道を誤ったり、休んだりしたら、意味がなくなる。「初めはたいしたことはないと思って、ライバルをバカにしてはいけない。やがては巨大な強敵になる」と、実氏は存在を把握したら調査し、早めに対策を打つ。そんな実氏だが、助手席からすぐに降りた。大塚商会の売り上げは毎年、着実に伸ばし、今期は社長交代時の約2.5倍の8400億円を見込んでいる。ご冥福をお祈りする。(田中克己)