通信モバイル業界の世界最大級イベントと言われるMWCバルセロナ2025が3月3日から6日の4日間、スペイン・バルセロナのFira Gran Via(フィラ・グランビア)で開催された。約3000社の通信事業者やネットワークインフラ・ベンダーらがモバイル通信関連技術から生成AIなどの最新IT技術と、それらを駆使したコネクティビティの世界を披露した。通信機器からモバイル端末、5G、生成AIなど新たな主役も生まれる。デジタルヘルスやグリーンテックなどへテクノロジーの幅も広げ、205カ国・地域から約10万5000人のエグゼクティブらが通信やネットワークの革新や進化を体験した。
主催のGSMAによると、出展・参加企業は2900社を超え、エリクソンやノキア、サムスン電子、グーグル、ベライゾン、インテル、AMD、シスコ、デル・テクノロジーズのほか、ファーウエイやZTE、シャオミなど中国勢、日本からは富士通やNECをはじめとする大手通信機器ベンダー、NTTドコモやKDDI、楽天グループの通信事業者らが最新技術をアピールするとともに、新たな施策を打ち出す。AI関連などのスタートアップも数多く出展し、日本からも総務省のジャパンパビリオンに約15社が出展。スタートアップのビジネスチャンスを後押しする4YFN(Four Years From Now)には約1000社が参加し、約900人の投資家を含めて新しい技術の紹介とパネルなど議論を交わした。(これまでの中心と言えるノキアとエリクソンは)
2025 年のイベントテーマは、コネクト(つながる)、コンバージ(収束)。クリエート(創造)。その1つは5Gの世界のさらなる進化をみせること。5GのROI(投資効果)にも焦点を当てる。2つめは、コネクトX。接続するIoTデバイスが100億を超す時代に求められるネットワークやエコシステムを示す。3つめは、AI+だ。とくに生成AIへの注目度が高まりに加えて、企業のデジタル戦略やテクノロジー企業、量子コンピュータなどによる変革について議論された。
オープンニングは5Gの世界から議論
オープニングの基調講演では「新たな未来への入り口」のテーマに、5Gの世界を議論した。2025 年には5Gの利用は世界人口の約3分の1になり、デジタル経済をけん引し、あらゆる業界でテクノロジー・ファーストのアプローチが不可欠になると言われている。主催者GSMAは「この革命の可能性を最大限に引き出すには、グローバル・パートナーシップ、堅牢なガバナンス、持続可能で公平なバリューチェーンが必要」と説く。世界の人たちが持つデバイスを接続するネットワークの能力を拡大し、パラダイムシフト、そして大規模なイノベーションが実現されると予測する。日本からはKDDIの髙橋誠社長兼CEOが3月3月の基調講演で、「Beyond Connectivity :The Telco to Techco Transformation」をテーマに、5GとAIをコアに、ローソンなど非通信領域での先進的なビジネスモデルやパートナーシップなどLife Transformationの取り組みを紹介した。
約1200の講演者らがAIなど講演やパネル議論をもした。その1つが「生成AIサミット、実験から変革へ」というテーマで、企業における生成AI活用と変革の道のりを探った。通信事業者の8割超が生成AIをテストしたり、ネットワーク障害対策などに活用したりしている。さらなる拡大の機会を探り、生成AIの実用的なアプリの開発、生成AI実装の基礎、試験運用から本格展開への移行戦略などを議論した。このほかAIへの信頼、ヘルスケアにおけるAI革命、AIを活用したDX(デジタル変革)、通信業界における成功事例など、AIをテーマにした議論が多数あった。有力企業は自社ブース内でも講演や議論を展開もする。
通信業界関係者によると、5G Advancedスタンダード(AS)になり、6Gの議論も始まった。だが、膨大な5G投資による大きな効果があったのか。5Gによる収益化に結び付くビジネスは生まれたのか。通信事業者のブースから答えが少しみえる。ボーダーフォンは仮想トークやドローン、スポーツへの応用、韓国SKテレコムはAIデータセンター、AIエージェント、AIボイスなどAIの応用をそれぞれ紹介する。スペインのテレフォニカはオープンゲートウエイ5Gドローン、量子Safeネットワークなど、中国テレコムは人が乗るドローン、AIホーム、中国モバイルはロボット、ホームエージェント、AIエージェントなど、ベトナムのベトテルテレコムはドローンなど。日本からはNTTドコモがARメガネ、無人飛行体など、KDDIはコンビニへの活用などを紹介する。
それらから分かったのは、ドローンやロボット、ARグラスなど新しいIoTデバイスへの期待になる。だが自動車を含めて、10年の前から言われ続けていること。解をスタートアップにも求める動きもあった。SKテレコムは4YFNにスタートアップコーナーを設けて、10社超を出展させる。KDDIはスタートアップとの協業をみせる展示にもしていた。
垂直統合からインテグレーション型への移行
もう1つ注目したことがある。通信ネットワークの構成を1社のベンダーによる垂直統合から通信事業者の環境に対応する最適な組み合わせを提供するインテグレーション型への提案になる。その1つは、OpenRAN に対応するKDDIとNECの合弁会社OREX SAI、楽天シンフォニーだ。同社によると、無線の送受信装置などの仕様をオープンにし、複数ベンダーの機器やシステムとの相互接続を可能とする標準化したもので、自社内で実証したものを提案する。もう1つは、NTTデータが提案する通信ネットワークを構成するハードとソフトを分離し、用途に合わせたインテグレーションするサービスになる。
日本企業が問われているのは、プレゼンスをどう上げていくのかだ。テクノロジー業界における存在感を失いつつある日本企業がモバイルやネットワークを起点とする新たな分野を創り出せるかということ。約10万人が参加したMWC2025は、CESなど他のイベント展示会とは異なり、これからを議論し、商談などの交渉を進める場にもなっているので、招待された人のみが入れるブースエリアもある。通信事業者がネッワークベンダーやAIベンダーなどパートナーと議論する一方、ネットワークベンダーらは各国の通信事業者らと意見交換し、次世代ネットワーク技術などを予測する。
なお、2026年は3月2日から5日まで、同じ会場で開催される予定。(田中克己)