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2025.10.27

【シリコンバレー視察】日立ソリューションズ、北米スタートアップ発掘戦略の深層

 日立ソリューションズの北米現地法人、日立ソリューションズ・アメリカ(HSA)がシリコンバレー拠点を核に、北米スタートアップとの「共創」を加速させている。生成AI、DevOps、セキュリティ、ファイナンスなどの注目分野で、アーリーステージの企業を発掘するため、VC(ベンチャーキャピタル)との戦略的連携を強化。これまでの「投資してあげる」という姿勢から脱却し、日本市場における実績と販売網を明確に提示することで、スタートアップ側に「選ばれる」パートナーを目指す。背景には、ITエンジニア市場の構造変化と、アプリ開発の内製化などの流れもある。

 同社のシリコンバレー拠点は、5人のエキスパートチームを擁し、北米スタートアップのエコシステムへの本格的な浸透を図っている。発掘対象は、目下の技術トレンドであるAI、DevOps(開発・運用)、サイバーセキュリティ、フィンテックなどで、市場黎明期(アーリーステージ)の企業に焦点を当てている。

 特筆すべきは、単独でのリサーチに留まらず、地元の強引なVCであるDXベンチャーズなどと強固な協力体制を構築している点だ。リーダーである鈴木伴英ディレクターは、従来の日本の大企業が陥りがちだった「投資家として優位に立っている」姿勢を戒める。今日のシリコンバレーにおいては、スタートアップ側が連携先・投資先を選ぶという、限りなく水平的な関係が成立している。大企業が定める資金を提供するといった上からの姿勢では、協業先を見つけるのは困難との認識から、HSAはスタートアップに対して、日本市場での具体的な販売チャネルや豊富なユースケースといった協業の“価値”を明確に示す戦略を取る。

 協業の基本スキームは、代理店・再販契約であり、スタートアップの技術・製品を日本国内で展開するための権利を取得する。HSAは、販売権の取得に付随する最大のボトルネックである、製品の日本語化、関連するマーケティング・販売戦略、さらに自社内での先行的な製品利用、製品の優位性や市場適応性を深く検討し、実績をその協業の提案に採り入れている。

 この再販契約は2007年から開始し、2025年6月時点で79社とのパートナーシップを確立している。当初は業種横断的な課題であるセキュリティ関連ソリューションが中心だったが、第2段階は業種特化型・業務特化型のSaaSアプリケーションへと対象を拡大。79社の中には、現在グローバルで成功を収めているServiceNowのように、日本市場で認知度が低い初期段階からHSAが取り扱いを開始した製品も含まれており、チームに優れた目利き力があるということ。

 革新技術は、IT市場に本格的な構造変化をもたらし始めている。特に生成AIがエントリーレベルの開発業務を代替することで、新卒や経験の浅いエンジニアの雇用機会が減少する恐れが指摘されている。一時的にもてはやされたコンピュータサイエンスの学生の職も厳しくなりつつある。ITエンジニアの求人は2020年に比べて、最近は4割減という状況にもあるという。

 同時に、スタートアップの経営モデル自体も変革期にあると、鈴木氏は分析する。 「従業員数を増やして売り上げを拡大する」従来のモデルから、「従業員数を抑制しつつ売り上げを最大化する」高効率ビジネスへのシフトが加速する。コード生成のスタートアップCursoなどだ。約20人の社員で1億ドル超の売上高を達成し、創業わずか3年で企業価値10億ドルに到達するという、資本効率の高い成長を実現している。

 背景には、企業がソフトウエアを「購入する」から「内製する(作る)」方向へと軸足を移しつつある傾向もある。流通大手ウォルマートのように、需要予測など基幹業務に関わる多様なアプリ開発を社内のIT部門による「内製化」の動きが、従来のSaaS製品の売れ行きにも影響を与え始めている。

 日立ソリューションズは、産業構造の変化に対応するため、今後はスタートアップへの資本提携にも注力し、再販契約に留まらない、より深いレベルでの戦略的関係構築へと一歩踏み出す方針を打ち出す。(田中克己)

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